岐阜 各務原市 那加新加納 ひよし幼稚園

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第3回 子育てインタビュー
山梨県甲府市いづみ幼稚園園長
岩田紀生(いわた・のりお)先生

SI発達診断プロフィールをもとに子どもの育ちを読み取り“子育ち支援”を実践されている岩田先生に、ほめ方、親子の絆の深め方、子育てのコツについてお話しをお聞きしました。

園長 岩田先生には昨年(平成14年)11月、知的能力発達診断(SI発達診断)プロフィールについての講演をしていただきありがとうございました。
このプロフィールというのは、毎年全園児に実施しているSI発達診断テストの結果をコンピュータ処理すると出てくるものですが、知能因子の位置関係によってさまざまな形が現れる、折れ線グラフのようなものです。
岩田先生は、その形から子どもの姿を知る手がかりにしようと、30年間、約1万人の子どもたちの実際の姿と照らし合わせて読み取り方を考案されたのですね。
知能診断というと一般的には知能指数いわゆるIQが高いかどうかを判断するものであるとか、数値で子どもを評価するものではないかという誤解や偏見もあるのですが、このプロフィールは決してそうではなくて、IQを重視するのではなく脳の働きであるいくつかの知能因子の相互の関連性に着目して、子どもの姿をとらえようとしている点がすぐれたところだと思います。

岩田 そうですね、子どもの育ちをどうやってとらえていくかということは、つねに私たちの大きな課題ですが、育ちを客観的に把握するというのは難しいことです。
どこの園の園長先生も保育者も自分の経験と勘を手がかりにして主観的にはとらえているのですが、それはその人の視点から見ているに過ぎず、あくまでもその人にしかわからない把握の仕方です。
しかし、この発達診断は子ども自身が頭脳を働かせながら10問の課題と対決した結果なのですから、客観的であるといえます。その結果をどう読み取っていくかということが重要なのですが、それを読む手がかりとなるのがプロフィールというものです。

園長 育ちというのは肉体的、心理的などいろんな側面から捉えることができると思いますが、人間というのは人さまざまで、たえず日々変化していくものですし、また心理面など目に見えない部分も多いですよね。

岩田 それだけに育ちを把握しようとすることには困難さがつきまとうのです。そこで私は、子どもの育ちを「自立と自律」という点にしぼって、それをこのプロフィールからどう読み取っていくかを研究してきました。
その結果、子どもの育ちを客観的に知ることで、お母さん自身が自分の育児姿勢を知る手がかりにもなることがわかりました。お母さん自身が冷静にご自分の育児を見つめなおして、お子さんとの関わり方を見直してみるということは、子どもにとって最大の幸福だと思います。

園長 岩田先生は、毎年、たくさんのお母さん方との面談をなさるそうですね。

岩田 ええ、年長児はほとんど全員、年中、年少児は8〜9割のお母さん方が面談を希望されます。そういったお母さんたちと接していると、お母さんから学ぶことも多くありますよ。

園長 それはどんなことですか。

岩田 すばらしい子育てをしているお母さんには、2つの共通点があります。それはひとつには、子育てを心から楽しんでいる姿勢です。もうひとつは、親と子の絶妙な距離感です。しっかり子どもと一体になるときと、少しずつ距離をあけながら見守るときのタイミングやスタンスがじつに適切なのです。

園長 岩田先生は、「勇気がわいてくる子育て70の言葉」(サンマーク出版)という本をお書きになられました。この本には子育てを楽しみましょう、ということが根底に流れていますね。

岩田 そうですね、子育てをどう考えるのかは重要なことです。子育てを義務だと考えると、喜びは見出せません。グチやイライラがつのってきてすべてのことがつらくなってきます。義務だと考える育児では、自分の立場ばかりが優先され、子どもの立場から考えようとはしなくなります。
そうではなくて子育てを母親である自分に与えられた最高の権利だと思えば、大きな心で子どものすることが許容できるようになります。
2歳半ごろから、親の意図に反した行動や態度を見せることがありますが、これは自分の意思で行動できるようになったあらわれです。これを「反抗」とか「わがまま」と思うとイライラします。義務で子育てをしているからです。毎日毎日ごはんを食べさせ、公園に連れて行ってあそばせて、お風呂に入れ、寝かしつけてやっているのに、なんでこの私の意に添わないことをするのだろう、というわけです。
そうではなくて、子どもが自分の意思を表現できるようになったのだ、「自己主張」するようになったのだと思うと、小さいながらも「自立」しつつあるのだという喜びに変わります。これを喜びとできるのは、母親だけに与えられている権利なのです。
2歳半ごろの「わがまま」などたいしたことはありません。この「わがまま」が十分許容されているかどうかが、その後、自分の意見が言えるか、したいことがしたいといえるか、行動できるかという自立、自己発揮につながっていきます。
これが十分でないと、生き生きとした子には育ちません。いつもお母さんに言われないと何もできないような指示待ち人間になります。指示待ちというのは依頼心が強いことですから、いずれ、失敗すると人のせいにする子に育ちます。お母さんが悪いんだ、というようになります。

園長 子育ては24時間休みなしですから、どうしても、やれ食事だ、着替えだ、睡眠だと目の前のことに追われがちですよね。
そのなかで何のために子育てをしているのかということをしっかり持つことは大切なことですね。

岩田 子育ての目標は、「自立と自律の援助」であると思います。自立とは自分でやろうとする態度です。自律とは、必要ながまんができることです。
たとえば、家族で外出するときに子どもが自分で靴をはこうとしています。でも外出の予定時間は過ぎています。
そこで「早くしなさい」と声をかけたとたん「はけない!」と泣き出しました。すでにはいていた片方の靴までぬいで、ひっくり返って泣いています。
こういう光景はどこの家庭でもよくあることだと思いますが、自分で靴をはこうとしていたのは、すばらしい自立の姿ではないですか。ここで「すごいね、ひとりではけるんだ。」とほめてあげるべきだったのです。
だのに、自立の態度を認めてもらえず、うまくはけないでいたときに「早くしなさい!」と言われて子どもは、うまくはけないのはお母さんのせいだ、お母さんはかせろ、とお母さんを動かす絶好のチャンスだと思ったから、子どもは泣きわめいたのです。そうやって自分ではけなかったという本来自分で取るべき責任を転嫁したのです。
それで、お母さんはますますイラついて「じゃ、もう行かないから!勝手にしなさい。」で、楽しみにしていた外出はなくなります。
このお母さんに「子育ては自立と自律までの援助」ということが頭の片隅にでもあれば、こんな悲劇は起こりえなかったでしょう。(笑)

園長 子どもに指図や命令をしても、たとえその場は子どもがその通りにしたとしても、子どもの態度として定着はしませんよね。
本園でも、指示命令で子どもを動かすのでなく、先生たちは子どもたちをほめて育てるということを大切にするようにしています。

岩田 指図のし過ぎ、口の出しすぎを「過干渉」と言いますね。余計な手のかけ過ぎを「過保護」と言います。
しつけるためには干渉が必要です。
子どもを安全に育てるには保護することも必要です。しかし、これが過ぎると過干渉、過保護になります。
干渉と過干渉、保護と過保護との境界線は子育てをする人により個人差があります。だからこそ子育てがおもしろい、子育ては奥深い、子育てに正解は無いとも言えるのですが、積極的に親がかかわった方がよいこと、できるだけ子どもに任せた方がよいことの区別はつけておく方がよいでしょう。

園長 それはどんなことですか。

岩田 食事、排泄、睡眠、衛生など健康、安全に関することはかなり積極的な親のかかわりが必要です。
ただし、年齢に応じてかかわり方を変えるのが必要なのは言うまでもありません。幼児に対して、いつまでも乳児と同じようなかかわり方ではよくありませんね。
あいさつなどのモラルやマナーなどは、親の姿勢を見せながら子どもに気づかせていくのがよいでしょう。
直接的な親のかかわりをできるだけ少なくし、見守るというサポーター的な態度で育てたいのは、自立に向けての意欲や姿勢、態度というものです。
たとえば、「自分から積極的に友だちと遊びなさい」と言ってもそうなりません。「なりなさい」とすでに余計な干渉をしているからです。
子どもが自分から友だちのなかに入って遊び始めたという態度を見せたら、こういうときこそチャンスです。「友だちとたくさん遊べて、すてきだね。」と奨励してほめてあげてほしいのです。

園長 ほめ上手になる、ということですね。それがわかっていても、たいていのお母さんは日々の生活に追われてか、そんなゆとりを持つことはできないようです。
子どもに「すてきだね」なんて言ったことないわって(笑)そう言われるお母さんもいらっしゃって、何かこそばゆい感じがするらしいです。

岩田 ほめ上手は子育て上手だ、と言っていいでしょう。いま、何を育てたいのかが、しっかりと理解できている親である証拠です。
子どもがニコッとしたら、ほめ言葉がうまく子どもの心に届いたということです。
この積み重ねが、しかりとした愛のきずなを育てていきます。女児なら「すてきだね」男児なら「かっこいいね」が効果的です。
「すてきだね」って言ったことがないのでしたら、なおのこと言ってあげましょうよ。子どもだって言われたことのないほめ言葉を聞いたらうれしくてしかたないはずですよ。
自分がこそばゆいくらいの感覚の言葉ってそう、ないじゃないですか。ぜひ、今日から使ってみてください。

園長 その他に、効果的な言葉がけにはどんなものがありますか。また、うまくない言葉がけとはどんなものですか。

岩田 結果に着目した言葉がけは、やめたほうがよいでしょう。たとえば、「うまくできたね」とか「上手、上手」だとか、「おりこうさん」というのもやめた方がよいですね。

園長 「おりこうさん」というのは、ほめていることにならないのですか。

岩田 使うのなら、3歳ぐらいまでの子に限定しておきたいほめ言葉ですね。幼児期の自立とは、「自分で考え、自分で行動する」態度を身に付けることです。まずは自分から主体性をもって行動する態度を育ててあげたいのです。それには、そういう行動が見られたら、すかさずそこをほめてあげることです。
「おりこうさん」というのは、文字がよめたとか、静かにしているだとか、行儀よくしているだとか、理解力と聞き分けのよさだけをほめている言葉です。3歳を過ぎたら、「よく考えたね」「よくがまんできたね」などと、判断力と、行動力を育てるために、どうして「おりこうさん」なのか、その理由を具体的にほめてあげてほしいのです。

園長 なるほど。そう言われてみると「おりこうさん」というのは、親にとって都合のいい「よい子」であるときに使うことが多いかもしれませんね。でも、本当に育てたいのは「自分で考え、行動できる子」ですね。

岩田 子どもはほめる方向へ伸びていくものです。一度ほめるとうれしくなって、またほめられようとして同じことをします。
ふだんケンカばかりしている兄弟でも、たまには仲良く遊んでいるときがありますよね。そんなときに「兄弟仲良く遊んでくれて、お母さんうれしいわ」と言ってあげれば、またほめられたいと思って仲良く遊ぶでしょう。そうやって態度が定着していくのです。
やめさせたい態度や行動を子どもが「したとき」には、軽く注意するだけにして、「しなかったとき」にいっぱいほめてあげましょう。身につけてほしい態度や行動は「しなかったとき」は何も言わず、「したとき」には思いっきりほめてあげましょう。

園長 よい態度、姿勢をほめるということですね。

岩田 「お兄ちゃんのくせに、ゆずってあげなさい」とか「お姉ちゃんだからがまんしなさい」と言ってしまっては、これではお兄ちゃん、お姉ちゃんであることがイヤになってしまいます。
否定、禁止、命令の意味で「お兄ちゃん」「お姉ちゃん」を使うと赤ちゃん返りを起こす原因となります。
お兄ちゃん、お姉ちゃんは「さすがお兄ちゃんだね」というようにほめるときにだけ使ってください。

園長 弟妹の世話をしてると用もないのに母親を呼びつけたり、自分も着替えさせてほしいとい言ったりして、弟妹と母親の争奪戦をするのが赤ちゃん返りですね。これはよくプロフィールに表れてきますね。

岩田 知的集中度にそれが表れてきます。けれど、兄姉の立場を立ててあげるように、お母さんの姿勢を変えればやがて直っていきます。

園長 子どもの姿が見えて、その原因がわかるところが、このプロフィールのすごさですよね。

岩田 さらにその対応策までわかるところが、よりスゴイいところではないですか。

園長 自立と自律という姿も、その度合いによってプロフィールにいろんな形で表れますよね。

岩田 自立とはすなわち何度も言うように、「自分で考え、自分で行動する」ということですが、自分で決める力というのは、自分で決める体験をたくさんすることで身についていきます。と同時に自分で決めたことが周囲の人に認められることが大切です。
少なくとも、せっかくの判断を否定してはいけないのです。子どもが自発的な意思決定をしたのにもかかわらず、「そっちじゃなくて、こっちがいいんじゃないの」とか、言うのは子どもの判断を否定することになります。  
このようなことを繰り返していくと、しだいに自分で考えることをやめて、ささいなことでも指示がないと行動できないようになってしまいます。
幼児が決めようとしたことに対して、親が先まわりをして判断し、そのとおりに動かそうとすることを、「結果重視の育児」と言います。
大人の社会は結果が重視されますね。それでお父さんの給料が決まったりします。でも、幼児期は唯一結果がどうであれ関係のない時期です。失敗がゆるされる時期です。
失敗することは、子どもにとってとても大切なことです。その失敗を乗り越えようと「押してもダメなら引いてみな」というように、柔軟にいくつもの活路を見出していくことが大切なのです。
そのためには、幼児期にたくさんの試行錯誤を経験し、迂回路(うかいろ)、まわり道をたくさん見つけられることがすばらしいのです。そして、それが正解であるかどうかは幼児期の段階ではさほど重要なことではありません。

園長 自分で決める態度をしっかりと奨励してあげることが大切なのですね。これはプロフィールの「評価」の力に表れてきますね。

岩田 「そうか、そうだね」「いいところに気づいたね」「そういう考えもあるね」「あなたの考えでいいと思うわ」という、これがよい言葉がけの姿勢で、「評価」の力を伸ばす言葉がけです。

園長 子どもというのは本当に正直なもので、ありのままの姿がプロフィールに表れると感じています。
このプロフィールを参考にしてお母さん自身が自分を見つめ直して子どもとのかかわり方を考えてみること、これが客観的に育児を見るということですね。

岩田 プロフィールは、子どもの育ちの良し悪しをジャッジするとか、こういう子であるというレッテルを貼るというような、固定的な見方をするためのものでありません。
そうではなく、これをぜひお母さんの育児に役立てるというダイナミックな使い方をしてほしいのです。それが子どもにとって最大の幸せにつながるのです。

園長 なるほど。本当に今日は、どうもありがとうございました。(了)

平成16年3月